まことは巨大な英霊に包 まれ ひらめきの訓練の中 へと導かれていく… |
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巨大な犬 英霊の願い を背負う少年期回想記 |
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第2話 | ||
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祖母の遺志 | |
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東 京 | |
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浮浪者 | |
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十年の空白 | |
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仕事と恋愛 | |
祖母の遺志 ゼンは、八十才までほとんど病気知らずだったが、まことが左翼に洗脳された頃から、次第に元気が無くなっていった。そして今度は宗教にかぶれたまことを、みんなが寄ってたかってけなして「できそこない!」と馬鹿にするので、ゼンはこれ以上、まことのことを擁護することができなくなり、次第に言葉が少なくなった。 どんなことがあっても、ゼンだけは最後までかばっていたが、家族のみんなに理解して貰えないもどかしい思いが膨らみ、腹の中に苦いものがあふれていった。 次第にゼンの腹には黒い影が差していた。体調が悪くなり、お腹が少し膨れるようになった。 まことが教会に入って一年過ぎた頃、ゼンは畑仕事も出来なくなった。 ある日、ゼンは自分の余命があと幾ばくもない事を悟り、ある重大な覚悟を決めていった。そして、どうにかやっとその準備が整い終わった時、急激に力が抜けていった。 もう、立っているだけで辛くなり、やっとの思いで病院に行くことにした。 チカとかつえが交代で、ゼンの付き添いに通っていた。「おれは、今までチカさんに好きなことばかりさせて貰うて来て、ほんに幸せもんぞ・・。もうなーんも思い残す事は無かー」付き添いに来ていたかつえに、ゼンはしみじみと覚悟したように話すのだった。 ある日、チカはゼンに着替えを持って行ってあげようと思って、二階の姑のタンスを開けた。 だがあれほどたくさんあった着物が一枚もなく、空っぽであった。驚いて他の引き出しも次々に開けていったが何も入ってなかった。そして最後の引き出しにポツンと一つだけ風呂敷に包まれたものが現われた。胸騒ぎを感じて急いで結びをほどくと、そこには喪服を着たゼンの写真と白い死装束がきれいにたたんで入れてあった。ゼンは自分自身の死期が近いのを既に予感して、何かの願をかけるように、きれいに身辺整理をしていたのだ。チカは姑のゼンの、死を迎える準備と覚悟に驚いてしまった。 やがてまことのもとに「祖母の危篤」の知らせがあった。直方伝道所に派遣されていたまことは、かなり時間が経ってからその知らせを聞き、慌てて見舞いに行った。だがゼンは既に抗ガン剤を打たれて、激しい痛みで体をガタガタと痙攣させて苦しみもがいていた。 お通夜の夜、姉のかつえが遺体にすがり「婆ちゃん!婆ちゃん!」と激しく泣いていた。 まことは身を切られるように悲しかったが、自分のせいで祖母が心を痛め、急速に体を病んでいった気がしていた。体を張ってまことを逃がしてくれたゼンの姿を思い出していた。冷たく動かなくなったゼンの遺体を見ながら、とうとう恩返しも出来なかったことを申し訳なく思った。(お婆ちゃん、ごめんよ、ごめんよ・・)と心の中でつぶやいていた。自分が祖母を死に追いつめた気がして、泣くわけにはいかなかった。(泣いちゃいけない!泣くもんか・・)まことは平静を装い涙をじっとこらえた。 まことは信仰するようになってから(人間は死んだら肉体を脱いで魂は霊界に行くもの・・)と思い、肉身の別れが永遠の別れとは思わなくなっていた。 ゼンの魂はいつも自分の心に語りかけ、見守ってくれている感覚があった。そこに在るのはゼンの「抜け殻」だけだった。(ごめんよ、ごめんよ、お婆ちゃん!今、何処にいるの・・?)まことは目を閉じて祖母の魂が何処にいるのか捜した。 その時、ゼンの霊がまことを包み込んだ気配がした。脳裏にゼンの顔が現われた。(まこと・・よかよか、泣かんでよか、おれの事はもういいけん、自分の道を行きなさい・・いつも見守ってあげるけんね。婆ちゃんはもう地上ではお前のことを守れないことが判ったよ。これからは霊界から、いつでも何処でも飛んでいって守ってあげるからね・・)心にそう語りかけると、まことを包み込むように背中に消えていった。 翌朝、ゼンの遺体には死化粧が施され、生前大切にしていた物と一緒に棺に入れられた。ゼンが良く唱えていた般若心経の経本もゼンの枕元に入れられた。やがて棺は火葬場に運ばれ火が点けられた。みんなは控え室に移動したが、まことは外に出て煙突から上がる煙をしばらく見ていた。だが急に何かを感じて一人だけ元の場所に戻って来た。
東 京 まことが教会に入って二年目、急に東京への人事移動の話が持ち上がって来た。(これはいい機会が出来たぞ・・)まことは密かにそう思った。というのも、東京に行ったまま帰らない兄ののりおの消息を探すためにも(いずれ東京に行かなければ・・)と思っていたからだった。渋谷支部に行くことに決まったので、新たな東京の環境に移るのを機会に、そのままこの組織から静かに抜け出す計画をたくらんでいた。 かすかな不安と希望を胸に抱きながら、東京行きの汽車に乗った。 浮浪者 初めて見た東京は、やたらに人が多く、高いビルが果てしなく立ち並ぶ都会だった。
十年の空白 昼間はウエイター、夜は喫茶店のカウンター、と毎日忙しく働いた。チーフに中華料理の作り方を教えて貰い、いつしか簡単な料理ぐらいは作れるようになった。 しばらくして当の兄貴本人からの電話が入った。世田谷の方で独立しサッシの会社を自営しているとのことだった。 まことは十年ぶりに兄ののりおに逢って、ただただ懐かしかった。小学生の頃に別れたきりだった。 しばらくしてまことはホテルを辞め、兄のりおのいる街の方に引っ越した。兄の仕事を手伝ったりしたが、次第に十年の空白がいかに大きいかを感じていった。血を分けた兄弟なのに、判り合えない他人のような冷たい関係があった。心の通わない悲しさの中で、仕事を手伝いながらも失望していった。(サッシ業は自分に合う仕事ではない、ここは自分の安住する場所でない…)と感じると、やがて行くのをやめた。 仕事と恋愛 小さな弁当屋だったが、まことは寮に入って住み込みで働くことにした。人員が足らなかったのか、その日からすぐ包丁を持たせてくれた。毎日、大量の野菜や魚などを切ったり焼いたり、何百人分の量の下ごしらえする調理場の仕事は忙しかった。だが、食材を扱う手触りが何とも言えない快感だった。手が空くと弁当箱にご飯をよそう「盛りつけ」の仕事を手伝った。そこでのテキパキと段取りをする訓練は、仕事に対する心構えと「食材」を手で触れて処理していく楽しさを充分に味合うことができた。今までに感じたことのない不思議な充実感があった。包丁使いも、めし盛りも神技のように素早くなっていた。 いつしか「のろまのまこと」が「スピードのまこと」と呼ばれるようになっていた。
初めてのデートはスナックだった。ほんのりと酔いがまわった頃。「自分には、ある使命があって、いつか時が来たら、帰らなければならないんだ」「へえー…」だが彼女はその意味が何のことか判らなかった。まことはひろこの中に、だんだんと母親のようなぬくもりを覚えていった。今まで生きて来て、初めて人間同士の暖かさと安らぎを感じていた。 しばらくしてまことは弁当屋を辞めた。アパートを借りて、亀戸駅前の「喫茶店」に勤めるようになった。コーヒーやサンドイッチを作るカウンターの仕事は結構忙しかった。 午前中はめまぐるしく忙しかったが、午後には客足がパッタリと止まった。何とかお客の目を引こうと湯気の立ったコーヒーカップの絵を描いて店の入口に貼った。ポスターを工夫して描いている内に、文字や絵を書くことがとても面白いことに気がついた。(自分のやりたかった仕事はこれだ・・この仕事こそ自分の「天職」だ・・)そう直感したまことは本格的にレタリングの通信教育を習い始めた。時間を忘れて文字やイラストを練習して描く夜が毎日続いた。筆を持って熱中している時、何もかも忘れられる充実した時間が流れていた。 青春編 第2話 おわり |
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ひらめきの訓練場へ導かれていく |
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